エッセイコーナー
カーピアセロムで好評の「エッセイコーナー」。朝倉 賢氏(日本放送作家協会北海道支部長)のエッセイを
バックナンバーから毎月1篇ずつ抜粋して掲載していきます。
第50回
- (2001年冬号) 札幌学のすすめ
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二車線の道なのに、片方の車線はガラ空きで、もう片方に長い列ができている。こんな状況に出喰わしたら、あなたはどっちの車線を選びますか。
「先がどうなっているかは分からないが、列の後に付いた方が無難」
「行けるだけ行ってから先の事を考えよう。少しでも早く走ったほうが良い」
さて、行った先は工事中で、一車線になっていた。長い列の車はそのまま走るが、楽にここまで来た車はウインカーを出して割り込むしかない。
「勝手にどんどん追い抜いてきて、ここで入らせろなんて、虫が良すぎる」というわけで普通は仲々割り込ませてもらえない。仕方がないから、少しずつ頭を出して、気の弱そうな直進の運転手の前に強引に割り込む。合流点でのせめぎ合いである。
東京の車は、二つの道の合流点では、大体交互に一台ずつ入って順序良く流れる。東京に行くたびに私が感心することの一つである。大阪はそうは行かないらしい。気の強い方が先に行く。内気な運転者はいつまでも進めないらしい。
札幌市内の高速道路のランプを降りて、一般道に入る時、いつも感じるのは、札幌人の運転心理は大阪に近いのでは、ということだ。一般道を走ってくる車は、仲々高速からの車を入れてくれない。一般道の車は意地悪である。
ところが、自分が一般道を走っていて、高速のランプ脇まで来た時、すぐに進路をゆずってやるかと云えば、そうも行かない。前車との間隔を無理につめたりして、ウインカーの車を通せんぼをしてしまったりする。
札幌人の心理は東京人に近いのかなと思っていたが、全てがそうだとは云いがたい。
日常の観察の中から、札幌人の心理みたいなものを拾ってみて、それを積み重ねて分析して行けば、なにか新しい札幌が見えるかもしれない。
第51回
〜さっぽろ・消えた町かど(6)〜
- (2006年盛夏号) 風物詩も様変わり
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札幌の短かい夏は今が盛りだが、夏はいったいどんな事柄から始まるのだろうか。
昔は六月十五日の札幌祭りが夏の到来を知らせる行事だった。でも現在では、祭りより先によさこいソーランで夏が来たなと感じる人のほうがずっと多くなったようだ。直かに踊り会場に行く機会がなくても、地下鉄で派手な踊り衣装のままで会場移動をする人たちに出喰わして、高揚した話し声がわあんと車内に響くのを聞いたりすると、「あゝ札幌の夏も変わったんだなあ」と感じてしまう。この乱舞に比べれば、神輿の渡御も山車の列も静かなものだ。サーカスや露店も中島公園でにぎわいはするものの、街じゅうを巻き込んでの祭礼にはほど遠い存在になってしまった。祭礼の最中、家々の玄関を飾った"軒花"も、普段は変哲もない静かな道がほんの数夜"色電気"で華やいだのも、昭和とともに忘れられた。
札幌祭りが終わり、暑さが本格化し始めると"金魚売り"がやって来たものだった。のどかなふれ売りの怪声、天秤棒の両端に金魚の入った木の平桶とガラスの金魚鉢、ぶら下がってゆれる沢山の風鈴の涼し気な音色。そんな風物詩を知らない今の人達が気の毒のような気もする。
八月に入れば七夕だ。子供にとっては夏休み最大の催しかもしれない。団塊の世代の人達の幼児・幼少期の夏は、ラジオ体操と七夕と海水浴と盆踊りが四大行事じゃなかっただろうか。
七夕に願い事を短冊に書いて笹竹の枝につるして軒端にかざる。本来なら七月の行事だ。でも札幌は月遅れの八月。笹竹もないから、柳の低木を代りに使う。そして夜はカンテラを手に近所の家々を廻ってローソクをもらい歩く。カンテラはかんづめの空き缶と釘で作り、短冊も自作だった。柳の木は、豊平川の河原に密生していて、遠くから冒険でもするような気分で伐り出しに行ったものだった。その河原、今はすっかり公園化してしまって、今は後発の花火大会の会場の色合いが強い。盆踊りの熱気も冷えてしまった。
季節の風物詩も時代の波に洗われて、様変わりしていってる、という事なのだろう。
バックナンバー
- 第49回・(2000年冬号) 二〇〇〇年と電気 〜さっぽろ・消えた町角〜
- 第48回・(1999年秋号) 夏をしのぐ 〜さっぽろ・消えた町角〜
- 第47回・(1999年夏号) 秋扇を売る 〜狸小路のむかし〜
- 第46回・(1999年春号) 自然保護第一号? 〜藻岩山〜
- 第45回・(1999年冬号) 消えていった正月
- 第44回・(1998年秋号)日本の公園 第1号
- 第43回・(1998年春号)ハイ・タク今昔
- 第42回・(1997年冬号)オランダへの翼
- 第41回・(1997年夏号)創成川 〜車との共生〜
- 第40回・(1998年冬号)こっちの水は甘ぁいぞ
- 第39回・(1998年夏号)札幌八行 〜とうきび物語り〜
- 第38回・自然の声が聞きたくて
- 第37回・手頃なカバンが欲しい
- 第36回・サギ男は平凡な顔
- 第35回・衝立て式のプライバシー
- 第34回・ナイフを凶器にするな
- 第33回・帽子大好き
- 第32回・洋書とハヤシライス
- 第31回・寒い季節は映画にしよう
- 第30回・戦後初のかき氷
- 第29回・綾小路きみまろ
- 第28回・ばかばかしい一年か?
- 第27回・冷酒と熱燗
- 第26回・旅のドキドキ
- 第25回・カレーライスの危機
- 第24回・年の始めのためしとて
- 第23回・へんなマラソン見物
- 第22回・花眼鏡
- 第21回・食は郊外にあり
- 第20回・ただいま冬眠中
- 第19回・車との別れ
- 第18回・大阪の納豆
- 第17回(2008年6/7月新緑号より)・地下鉄開業と二組の外人
- 第16回(2008年4/5月陽春号より)・餓えた時代もあったのに
- 第15回(2008年2/3月新春号より)・雪まつりとカーニバル
- 第14回(218号12+1月冬将軍号より)・十三文半の末路
- 第13回(216号2007年8+9号盛夏号より)・大イベントでテレビが替わる
- 第12回(217号2007年10+11月錦秋号より)・盆踊りも様がわり
- 第11回(2007年6+7月新緑号より)・電線と電信柱
- 第10回(2007年4+5月陽春号より)・ニシン曇りはどこへ?
- 第9回(2007年2+3月新春号より)・馬が暮しを支えてくれた
- 第8回(2006年4+5月陽春号より)・どうしてここに陸橋が?
- 第7回(2006/2007年12+1月風将軍号より)・盛り場・北二十四条
- 第6回(2005年12+1月冬将軍号より)・さよなら旧豊平駅
- 第5回(2006年9+10錦秋号より)・大都市を泳ぐサケ
- 第4回(2006年1+2新春号より)・陸橋はテーマパーク
- 第3回(2005年9+10錦秋号より)・屯田坂と泥棒書店
- 第2回(2005年7+8月盛夏号より)・自然の声が聞きたくて
- 第1回(平成18年6月発行号より)・花見と祭りと円山線